国際体操連盟(FIG)による新しい障害物競走の開発とパルクール界にできること【寄稿】

寄稿記事
今回の記事は世界中のパルクール界を混乱に陥れている昨今の「パルクール実質競技化」について、トレーサー含むパルクールに興味のある皆さんに情報を整理してお伝えするべく、Twitter個人のブログにより積極的に発信されている松田 光希氏の寄稿をお届けいたします。

国際体操連盟の決定

2017年2月24日、国際体操連盟(FIG)は、スイスのローザンヌにて開催された理事会にてパルクールに言及した上で、障害物競走型の新しい体操の種別を作っていく計画を発表した。

これを受け、2017年3月31日、イギリスのパルクール統括団体であるParkour UKは、FIG会長の渡辺守成氏に対し公開書簡を送付した

Parkour UKのウェブサイト上で確認できる公開書簡によれば、Parkour UKは、FIGによる今回の新しい競技種目の開発は「不正であり、侵害である」と反対の意向を示している。「パルクールは体操ではない」、「 トレーサー・フリーランナーは体操選手ではない」、「パルクールは独立したスポーツである」という主張だ。

パルクールの主権を認める覚書の要請

さらに、Parkour UKは公開書簡の中で、パルクールを統括しようとするFIGに対し、60日以内にパルクールの主権を認める覚書の締結に向けた会合を設定するよう要請した。また、FIGが今回の要請に従わない場合、本件はスイス・ローザンヌのスポーツ仲裁裁判所へと場所を移すことになる。

※執筆時点(2017年5月19日)では、FIGから覚書に関する公式発表はされていない。

国際オリンピック委員会への提案

今回の騒動を継続的にレポートしているinside the gamesの記事によれば、国際オリンピック委員会(IOC)は既にFIGからの提案を受けていた。そして、パルクールをベースにした障害物競走について、オリンピックの新種目の1つとして検討を開始しているという。競技名は、「パルクール」ではなく「障害物競走 (Obstacle Course Sprint, OCS)」という名称になるようだ。

FIGの最初の発表からおそよ2か月後の5月10日、FIGは、障害物競争をベースにした新しい競技種別を作ることに承認したことを公表した。さらに、2018年のワールドカップ開催を目指すことを明言している。

この公表の中で、FIGは既に以下のパルクール有力団体と提携していると述べている。

  • APEX School of Movement (アメリカ)
  • JUMP Freerun (オランダ)
  • the Mouvement International du Parkour, Freerunning et l’Art du déplacement(フランス)

また、YAMAKASI(ヤマカシ)のメンバーであり、the Mouvementの代表を務めているシャルル・ペリエール氏は、この提携について「障害物競走と、競技ではない身体的活動としての本来のパルクールの間において、ポジティブな関係性を作ることが目的」とFIGのプレスリリース上で述べている。

APEX School of Movement との決裂

しかし、FIGによる公表からわずか3日後の5月13日、APEX School of Movement (以下APEX)は、FIGとの関係を解消した。同時にAPEXは、5月28日にフランスのモンペリエ市にて開催する予定であったAPEX INTL 2017という障害物競走(OCS)の国際大会を中止するという発表を行った。

※APEXの発表の全訳はこちら。
以下の動画が開催されるはずだったAPEX INTL 2017のプロモーションムービー。FIGの進める障害物競走は非常に近いものになるだろう。

APEXとFIGの決裂の原因

今回のAPEXの騒動の発端は、Vestnik Kavkazaに掲載された国際体操連盟アンドレ・ガイズビューラー事務総長の以下のインタビューである。

“現在、パルクールの実践者たちは組織化されていません。彼らの基本的な精神は自由であることであり、組織化されないことです。しかし、彼らは競技を行うことを望んでいます。しかし、もし彼らが競技を行うならば、彼らには最低限のルールおよび魅力的な競技にするための環境が明らかに必要です。私は、国際体操連盟こそが、パルクールをより一層発展させる、最も資格のある国際連盟であると確信しています。”

※問題の記事は現在削除されており、閲覧不可となっている。また、国際体操連盟からのこのインタビューに対する説明は得られていない。

つまりFIGは、パルクールの障害物競走的種別を自ら作り、同時にパルクール界をサポートし、発展させていく立場を目指していると表明しつつ、パルクールそのものの国際的な管理団体を目指している、というのが明らかになったのだ。

またFIGは、APEXに対して当初保証していた、新しく作られる種別の運営委員会における権利についても反故にしたという。度重なるFIGの行動の矛盾と変化、そしてガイズビューラー事務総長のインタビュー記事を受け、APEXはFIGとの提携を解消した。

APEXのメッセージ

APEXは記事の最後で、世界のトレーサー・フリーランナーに対し強くメッセージを伝えている。

私たちはまだ、正式に認められたパルクールの国際的な組織・統括団体ではありませんが、パルクールの外にいる国際組織が、パルクールコミュニティの発展についてルールと規制を作ることは、絶対にして欲しくありません。(中略)もし各国において、国内の体操統括団体だけが唯一の認定パルクール団体となった場合、既存のパルクールの熟練者達は、危険で薄まってしまった新しい形のパルクールがこれまでのパルクールに打ち勝つことにより、パルクールの世界から追い出されてしまうかもしれません。

それぞれの国で、民主的かつ公平な方法で全国組織になるために活動しているパルクール団体を支援してください。Parkour UKを支援してください。

堂々と振舞ってください。自分の意見を大きな声で話してください。自問自答してください。APEXに、他のパルクール組織に、仲間たちに質問してください。ここには指導者はいません。丈夫な台座もありません。十分に情報収集してください。建設的な議論に貢献してください。効果的な解決方法を思い描いてください。

私達ができること

今回の騒動は、FIG、Parkour UK、APEX、JUMP Freerun、the Mouvementだけの問題ではありません。海の向こうで起こっていることについて、日本のパルクール界から意見を述べましょう。議論しましょう。FIGが目指しているのは、2020年の東京オリンピックでのパルクール型障害物競走の実施であり、この動きを最も推進しているFIGの会長は日本人です。日本のトレーサーの抗議活動が、パルクールの未来に大きな影響を与えるかもしれません。一人のパルクールを愛する者として、この記事が日本のパルクール界の議論を推進し、日本のパルクールを体操界から守る原動力になることを願っています。

補足
今回の記事は寄稿者の見解でありトレポスの見解を示すものではありません。

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